横浜地方裁判所 昭和53年(行ウ)35号 判決 1983年3月30日
東京都中央区日本橋室町四丁目五番地
斉藤ビル
原告
三富株式会社
右代表者代表取締役
関法之
右訴訟代理人弁護士
石川秀敏
同
山岸美佐子
横浜市鶴見区鶴見町一〇七一番地
被告
鶴見税務署長
伊藤隆夫
右指定代理人
平賀俊明
同
嶋海悠裕
同
水庫信雄
同
豊田治彦
同
田中和
同
諸星武
同
外崎和彦
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和四八年五月二二日原告に対してした昭和四七年六月から同四八年二月までの揮発油税及び地方道路税額四、六〇五万〇、三〇〇円並びにこれに伴う無申告加算税四六〇万四、六〇〇円の賦課決定の全部を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、原告に対し、昭和四八年五月二二日、昭和四七年六月から同四八年二月までの揮発油税及び地方道路税として四、六〇五万〇、三〇〇円並びにこれに伴う無申告加算税として四六〇万四、六〇〇円を賦課する旨の決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
2 原告は、本件賦課決定について、被告に対し、同年六月一二日に異議申立てをしたが、被告は同年九月七日、これを棄却する旨の決定をし、更に原告は、国税不服審判所長に対し、同年一〇月五日に審査請求をしたが、同所長は昭和五三年八月七日に、これを棄却する旨の裁決をした。
3 しかし、原告は、何ら本件賦課決定を受けるべき理由はないから、同決定は違法である。
よって原告は、被告に対し、本件賦課決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2の各事実を認め、同3を争う。
三 被告の主張
1 原告は、昭和四七年六月から同四八年二月までの間の各月に、横浜市鶴見区北寺尾町一二七一番地所在の揮発油製造場 (以下「本件製造場」という。)において、レギュラーガソリン、スーパーガソリン(以下、これを一括して「正規の揮発油」という。)をシエル石油株式会社(以下「シエル石油」という。)横浜油槽所又は東京油槽所から、原田紀夫(以下「原田」という。)又は佐々政洋(以下「佐々」という。)が運転するタンクローリーで、またトルオール、N―ヘキサン又はKGソルベント(以下、これらを一括して「溶剤」という。)を東京油槽倉庫株式会社又は内外油槽株式会社から、右原田、佐々又は高橋克夫が運転するタンクローリーで、それぞれ別表一「搬送」欄記載のとおり本件製造場に搬送した。次いで、原告は、同所において、右正規の揮発油を搬送した車輌、原告所有の廃車タンクローリー及び地下埋設タンク五基を使用して右正規の揮発油に溶剤を混和し、同表「製造」欄記載のとおり新たな揮発油(いわゆるブレンドガソリン。以下「本件揮発油」という。)を製造し、これを同所から原田又は佐々が運転するタンクローリーで大月石油株式会社(以下 「大月石油」という。)ほか四社に同表「移出」欄記載のとおり移出(販売)したにもかかわらず、当該移出(以下「本件移出」という。)に係る各月分の揮発油税及び地方道路税の所轄鶴見税務署長に対する納税申告書の提出及び右各税の納付を怠った。
2 本件揮発油の製造、移出が原告の業務として行われたものであると認定した理由は、次のとおりである。
(一) 本件揮発油の製造、移出等に当たって中心的役割を果たした山村正夫(以下「山村」という。)は、原告の取締役として会社業務の全般的な指揮監督を行っていた。
すなわち、山村は、原告の発起人のうちの一人であり、かつ、株主であった。また、原告の商業登記簿には、山村が取締役として登記され、原告の昭和四六年一二月一日から同四七年一一月三〇日までの事業年度の法人税確定申告書においても、山村に対して取締役としての役員報酬が支払われたことが記載され、しかも、その報酬額は、原告代表取締役の関法之(以下「関」という。)よりも多額であった。
(二) 本件揮発油の製造、移出は、原告の赤字を補填するために開始され、右揮発油を製造するための地下タンク五基の埋設費用、溶剤の仕入代金等の資金は、すべて原告から支出された。
また、本件揮発油の材料である正規の揮発油は、原告の仕入先であるシエル石油横浜油槽所又は東京油槽所から原告名義で仕入れられた上、その旨が原告の仕入帳に記載され、他方、本件揮発油は、原告名義又は架空会社である森満産業株式会社(以下「森満産業」という。)名義で原告の販売先である大月石油、幸洋石油株式会社(以下「幸洋石油」という。)等に移出、販売されるとともに、その売上げは、森満産業名で扱われたもの以外は原告の売上帳に記載されて、原告自身の収入として扱われていた。
(三) 原告の従業員は、すべて本件揮発油の製造の事実を知悉しており、本件製造場と原告本店との間の事務連絡等は、原告の従業員が行っていた。
3(一) 揮発油税及び地方道路税の額は、その月に移出した揮発油の数量から、揮発油税法八条一項、同法施行令二条(昭和四八年政令第一四七号による政正前のもの)及び地方道路税法三条に基づき当該数量の一〇〇分の一・五に相当する数量を控除して算出される課税標準数量に、揮発油税法九条に基づく揮発油税の税率(揮発油一キロリットルにつき二万四、三〇〇円)と地方道路税法四条に基づく地方道路税の税率(揮発油一キロリットルにつき四、四〇〇円)との合計税率(揮発油一キロリットルにつき二万八、七〇〇円。同法七条参照)を乗じて算出される。
したがって、本件移出に課税される揮発油税及び地方道路税は、別表二「揮発油税及び地方道路税」欄記載のとおりであり(国税通則法一一九条一項に基づき、一〇〇円未満の端数切捨て)であり、その合計額は、本件賦課決定に係る右各税合計額と同額である。
(二) 無申告加算税の額は、国税通則法六六条一項一号に基づき、右(一)により算出された毎月の納付すべき揮発油税及び地方道路税の合計額(同法一一八条三項に基づき、一、〇〇〇円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出される。
したがって、各月の無申告加算税及びその合計額は、別表二「無申告加算賦課決定額」欄記載のとおり(同法一一九条四項に基づき、一〇〇円未満の端数切捨て)であり、その合計額は、本件賦課決定に係る右税合計額と同額である。
よって、本件賦課決定は、適法である。
四 被告の主張に対する認否
1 被定の主張1の事実は、すべて否認する。
2(一) 被告の主張2(一)の事実のうち、山村が原告の商業登記簿に取締役として記載されていたこと及び原告の法人税確定申告書に山村の役員報酬が記載されていたことを認め、山村が本件揮発油の製造、移出等に当たって中心的役割を果たしていたことは知らない。その余の事実は否認する。
なお、関が原告を設立した理由は、甥の山村が従前の勤務先で不始末を犯したため、これを自己の監督下で更生させようと考えたからであり、したがって、関が山村に責任ある地位を与えるはずがなく、単なる従業員として自己の指揮監督下に置いていたものである。また、関は、原告の資本金全額を拠出し、経営の全部を直接掌握運営していたが、会社設立の際に、その事務的処理を公認会計士藤本昌に一任したところ、同公認会計士において、山村が関の甥で石油業の経験もあることを配慮して、同公認会計士の一存で、山村に発起人、株主及び取締役の名を冠したにすぎない。そして、関は、山村の取締役就任についてシエル石油から異論が出た際、すぐに山村に対し、取締役の登記の抹消を命じている。また、役員報酬の点については、そもそも関は、会社のために私財を投げ出す覚悟こそあれ、わずかの役員報酬をもらう気など毛頭なく、交際費捻出のために書類上、関の役員報酬が記載されていたにすぎない。
(二) 被告の主張2(二)の事実のうち、山村が、原告の正規の揮発油を費消した分量に匹敵する分だけの本件揮発油の売上げを、原告の帳簿に記載していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
なお、山村は、佐々と二人で本件揮発油を販売して、その利益を折半しようと図り、増量分の揮発油を森満産業名義で販売し、その利益を佐々と山分けしていた。そもそも関は、原告を飛躍させるべく雄大な構想の下に、着々とその準備を進めていたので、当然に予想される初年度の赤字などさして意に介していなかったし、山村も、這般の事情を承知していたので、同様であった。また、山村は、当初本件揮発油製造資金捻出のために、関を欺き仮払金として原告の金を出させているが、これは山村個人の原告に対する借入金となるにすぎない。更に、佐々及び原田は、原告の従業員ではなく、原告は同人らを社員として遇したことも、その給与を支払ったこともない。
(三) 被告の主張2(三)の事実は否認する。
なお、山村は、本件揮発油製造の事実を、対外的にも社内的にも偽装隠ぺいすることに努めていたのだから、原告の従業員すべてが、右事実を知悉することはありえない。
3 被告の主張3は、すべて知らない。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証、第二号証の一、二
2 証人山村、同神原和義、同神南猛、同有元靖博、原告代表者
3 乙第一ないし第九号証の原告の存在及び成立並びに第一四、第一六号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一七号証
2 証人鈴木軍造、同小沼淳、同大門隆、同平野勲
3 甲第一号証のうち公証人作成部分の成立を認め、その余の成立は知らない。第二号証の一、二の成立は知らない。
理由
一 請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告の主張1及び2の各事実について判断する。
1 証人鈴木軍造の証言により原本の存在及び成立が認められる乙第一号証、証人小沼淳の証言によりいずれも原本の存在及び成立が認められる同第二ないし第四号証、証人大門隆の証言により原本の存在及び成立が認められる同第五号証並びに右各証言及び証人山村の証言を総合すれは、山村は、昭和四七年六月一〇日ころ、佐々と相談の上、正規の揮発油に溶剤を混和して本件揮発油を製造し、それを正規の揮発油よりも安く販売することを企図し、横浜市鶴見区北寺尾一二七一番地の土地を賃借し、同月二五日、同所に一〇キロリットル用地下タンク五基を埋設して本件製造場を造ったこと、佐々及び原田は、同月二六日から、シエル石油横浜油槽所又は東京油槽所より同所に、両名自らタンクローリーを運転し又は高橋克夫をして運転せしめて、正規の揮発油を搬入し、更に同月二七日から、岩本忠を通じて、東京油槽倉庫株式会社又は内外油槽株式会社より溶剤を搬入し始めたこと、佐々及び原田は、同日から、同所において、正規の揮発油を搬送した車輌、原告所有の廃車タンクローリー及び前記地下埋設タンク五基を用い、右正規の揮発油に溶剤を八対二ないし七対三の割合で混和して本件揮発油を製造し、更に同所の製造場から、自ら運転するタンクローリーを用いて本件揮発油を移出し、それを大月石油、幸洋石油ほか七社に販売し始め、同人らは同月二七日から昭和四八年二月二八日までの間、別表一記載のとおり反覆継続して本件製造場において本件揮発油を製造し、これを移出し、右と同様販売したこと、本件移出に係る各月分の揮発油税及び地方道路税について、原告から所轄鶴見税務署に対する納税申告書の提出及び右各税の納付がなされなかったこと、佐々及び原田(同人は佐々の弟)は、山村から二人合わせて月額二五万円の支給を受けて、本件揮発油の製造、移出に従事していたこと、本件製造場の地下埋設タンク等の設備資金、運搬用タンクローリーの購入代金、溶剤仕入代金、佐々及び原田の前記給与等本件揮発油の製造資金(以下、これらを合わせて「本件製造資金」という。)は、山村がすべて原告の経理操作によって、準備し、これを支出していたこと、本件揮発油の製造量及び移出先は、山村がすべて佐々等に指図をしていたことを各認めることができる。
したがって、右各事実に照せば、山村が、本件揮発油の製造、移出について、中心的役割を果たしていたものということができる。
2 次いで、山村の原告内における地位について判断するに、原告の法人設立届出書に、山村が発起人及び株主として記載されていたこと、原告の商業登記簿にも、昭和四八年三月二八日まで、山村が取締役として登記されていたこと、原告の昭和四六年一二月一日から同四七年一一月三〇日までの法人税確定申告書に、山村の取締役報酬が記載されていたことは、いずれも当事者間に争いがない。更に、前掲乙第二、第三号証、成立について争いのない同第一五号証、証人山村、同神南猛及び同有元靖博の各証言、原告代表者関の尋問の結果を総合すれば、山村が従前の勤務先不動石油株式会社(以下「不動石油」という。)で不始末を起こし、多額の負債の整理につき叔父の関に援助を求めたことから、関は、甥である山村を更生させるために原告を設立したこと、関は、石油業には全く素人であり、週に一、二回しか原告事務所に出社せず、更に会社業務については、自己の知名度を利用して大口の新規取引先の開拓について顔を出す程度であったこと、関以外の非常勤取締役もほとんど原告事務所に出社しなかったこと、原告の従業員の中には、山村を除いて、会社の業務につき指揮、監督する立場の者はいなかったこと、山村は、昭和三二年ころから石油販売業に従事しており、特に昭和四六年暮まで勤務していた不動石油においては、取締役に就任していたこと、原告の日常業務は、山村が従業員に指示して行わせ、その結果を山村が出社した関に報告していたこと、関が、山村の報告に異論を唱え、手形の振出し、書類の承認等の決済を拒んだことはないことを各認めることができる。もっとも証人有元靖博は、シエル石油東京支店販売課長である同人及びその部下村田が、原告の営業事務を指揮していた旨供述するが、右有元の証言によれば、右有元及び村田自身はシエル石油の従業員であり、原告はその担当特約店にすぎず、右有元においても、週一回程度しか原告事務所に来社せず、原告方に毎日訪れる部下の村田の報告を受けるに止まっていたことが各認められる。右各事実に照らせば、右有元の前記証言は、にかわに措信し難い。前記認定に反する証人山村の証言、原告代表者関の供述は、いずれも措信することができない。
以上の事実を総合すれば、移出が、原告を実質的に経営していたか否かはともかく、少なくともその日常業務を全般的に指揮監督していたことが推認できる。
3 更に、本件揮発油の製造、移出が、山村において、原告の業務遂行として行われたか否かの点について判断する。
(一) 成立について争いのない乙第一一号証の二によれば、原告は、石油製品類の販売を目的とする会社であることが認められ、したがって、揮発油の製造、移出は、その販売の前段階として、原告の営業目的と密接な関連を有するということができる。しかも、前掲乙第二、第三号証、証人大門隆の証言によりいずれも原本の存在及び成立が認められる同第六、第七号証、小沼淳の証言により原本の存在及び成立が認められる同第八号証並びに右各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、山村は、本件揮発油が溶剤入りであることを秘し、本件揮発油を、正規の揮発油である原告の商品として、大月石油、幸洋石油等の原告の取引先に納品していたこと、したがって本件揮発油に関する注文は、右取引先から原告あてになされ、原告はこれを日常業務の一つとして受領していたこと、本件揮発油の材料である正規の揮発油も、原告が日常業務としてシエル東京油槽所等から仕入れたもので、その揮発油を用いて本件揮発油が製造されていたことが各認められ、右各事実によれば、本件揮発油の製造、移出は、現実的にも原告の営業と密接な関連を有していたものということができる。
(二) 次ぎに、山村が、原告の正規の揮発油を費消した分量に匹敵する分だけの本件揮発油の売上げは、これを原告の帳簿に記載していたことは、当事者間に争いがなく、更に、前掲乙第二ないし第一五号証、成立について争いのない同第一二号証、証人小沼淳の証言により真正に成立したと認められる同第一四号証、証人山村、同神南猛の各証言、原告代表者関の尋問の結果を総合すれば、本件製造資金は、当初、原告の山村に対する仮払金から支出されていたこと、右仮払金債務は、山村の指示により、架空会社である遠坂産業株式会社(以下「遠坂産業」という。)に対する買掛金、同じく架空会社である原田運送店に対する運送賃等を支払ったような経理をして相殺し、仮払金の決裁をしたこととして決算時にはすべて原告の負担で処理していること、右のような仮払金で購入されたタンクローリーについては、関自身が山村に対し、その購入を承認していたこと、原告の昭和四六年一二月一日から同四七年一一月三〇日までの法人税確定申告書には、前渡金で右タンクローリーが購入されたことが記載されていること、本件揮発油のうち溶剤による増量分については、一部は森満産業名義で売却して、その利益を原告の帳簿に記載せず、その余は、遠坂産業から売上げ量に相当するだけ正規の揮発油を購入したような帳簿上の処理をしていたこと、右のような会計操作の結果生じた簿外利益は、一部を本件製造資金として用い、その余は、遠坂産業からの架空仕入れ計上の際に、シエル石油からの正規の揮発油の仕入れ単価より一リットル当たり一円安く仕入れたように計上したり、また、原告が負担すべき揮発油の運賃を、通常の運賃一リットル当たり二円より一リットル当たり〇・七円程度安く支払ったように計上し、その差額を簿外利益で支払う等して、原告会社に右利益を帰属させ、又は帰属させる予定であったことが各認められる。以上の事実を総合すれば、本件製造資金は、右簿外利益が充当された分を除いて、すべて原告の負担において支出されていること及び本件揮発油の販売利益は、本件製造資金に充当された分を除いて、すべて原告に帰属し、又は帰属させる予定であったことが推認できる。なお、原告は、この点について、本件揮発油の販売利益は、佐々と山村の二人で折半していた旨主張するが、右主張に沿う証拠は存しない。
(三) 更に、前掲乙第五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき同第一六号証及び証人山村の証言によれば、原告の従業員辻本泰輔は、昭和四八年二月中旬ころ、本件揮発油の製造を中止しようと考えていた山村に対し、「今やめるのはもったいない。」旨の反対意見を述べていたこと、右辻本は、佐々に対し、「佐々さんのおかげで会社の赤字も減り、助かっている。」旨を述べていたこと、原告の従業員佐藤賢一は、山村に代わって、佐々から、正規の揮発油及び溶剤の仕入れの報告を受けていたこと、右佐藤は、佐々に対し、溶剤及び正規の揮発油の仕入れに対する販売数量の減損が多すぎると抗議したことがあることが各認められ、右認定に反する証人山村の証言は措信することができない。右各事実に照らせば、原告の従業員辻本泰輔及び佐藤賢一は、本件揮発油の製造、移出を十分知悉していたことが推認できる。
また、前掲乙第五、第一六号証、成立について争いのない同第一七号証、証人神南猛の証言、原告代表者関の尋問の結果によれば、原告の従業員は一〇人位であるところ、そのうち辻本昌之、山村博章、田坂彰一は、数回本件製造場に臨場し、本件揮発油の製造状況を現認していること、佐々に対する毎日の注文等の連絡も、原告の女子事務員が行っていたこと、原告の従業員神南猛は、本件揮発油に関し、山村の指示を受けて、原告の帳簿を操作していたこと、右神南は、従前不動石油に勤務して経理を担当していたところ、同社においても、いわゆる混合軽油を製造して売却し、架空会社を作ってその利益を穏し、これを税務署に申告せず、脱税していたことが各認められる。右各事実に照らせば、原告の従業員のうち辻本昌之、神南猛ほか多数の者が、本件製造場において本揮発油が製造され、同所からこれが移出されていたことを知っていたことを推認することができる。右推認事実に反する証人神南猛の証言は、たやすく措信することができない。
以上の事実を総合すれば、原告の日常業務に関して全般的な指揮監督者であった山村が、原告に利益を帰属させることを企図して、原告の資金及び従業員を使用して、原告の営業と密接に関連する本件揮発油の製造、移出をしたものと認めることができ、結局、本件揮発油の製造、移出は、山村の指揮監督の下に原告の業務遂行として行われたものということができる。
なお、原告代表者関の尋問の結果によれば、関は、本件揮発油の製造、移出の事実を、山村が本件に関して警察に逮捕された日である昭和四八年三月一九日まで知らなかったことを認めることができるが、この事実によっても、前記認定判示した事実を左右するには至らず、他に前記認定事実を覆すに足りる証拠はない。
三1 本件移出に係る本件揮発油の数量は、別表二「本件揮発油の移出数量」欄記載のとおりであるところ、各月の数量から揮発遣税法八条一項、同法施行令二条(昭和四八年政令第一四七号による改正前のもの)及び地方道路税法三条に基づき当該数量の一〇〇分の一・五に相当する数量を控除した課税標準数量は、同表「課税標準数量」欄記載のとおりである。そして、右課税標準数量に、揮発油税法法九条に基づく揮発油税の税率(揮発油一キロリットルにつき二万四、三〇〇円)と地方道路税法四条に基づく地方道路税の税率(揮発油一キロリットルにつき四、四〇〇円)との合計税率(揮発油一キロリットルにつき二万八、七〇〇円。同法七条参照)を乗じて算出される揮発油税及び地方道路税の月額とその合計額は、同表「揮発油税及び地方道路税」欄記載のとおり(国税通則法一一九条一項に基づき、一〇〇円未満の端数切捨て)であり、右合計額は、本件賦課決定に係る右各税合計額と同額である。
2 前記のとおり算出された毎月の納付すべき揮発油税及び地方道路税の合計額(国税通則法一一八条三項に基づき、一、〇〇〇円未満の端数切捨て)に、同法六六条一項一号に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出される各月の無申告加算税及びその合計額は、別表二「無申告加算税賦課決定額」欄記載のとおり(同法一一九条四項に基づき、一〇〇円未満の端数切捨て)であり、右合計額は、本件賦課決定に係る右各税合計額と同額である。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 吉戒修一 裁判官 山崎善久)